先日、有楽町のよみうりホールにて
日本近代文学館主催の「夏の文学教室」の講師として
お話をしてきました。
テーマは先にもお伝えしたとおり、
「宮沢賢治をナナメに読む」です。
ナナメというのは、斜にかまえる、という意味ではなく
いつもとはちがう入口から入ってみましょう、というくらいのことです。
賢治さんの詩にかぎらず、
現代詩は難解だと思われがちですが、
べつに正面玄関からはいらなくても、
横丁からまわって、ちょっとのぞくだけでも、よいのですよ、という
そんなお話をしました。
全部を理解しようなどと思わなくてもよいのです。
好きなことばを見つけて、
その周辺で遊ぶだけでも、けっこうな愉しみがあります。
賢治さんの詩であれば、
ルビの面白さに着目してみるのも、そのひとつ。
「栗樹」にカスタネアなどとルビがふられています。
学名をアレンジしているのだな、と思うのとともに
賢治さんが、そこから連想されるカスタネットの音も、
素材として使っているのだ、と推測してみるのも愉しいものです。
その栗樹の出てくる詩では、
蝉の羽音を瓦斯発動機(ガスエンヂン)にたとえているのですが、
そのけたたましさと、カスタネットの小気味よい響きが呼応します。
そんなふうに読んでみてもよいのです。
これは〔落葉松の方陣は〕という詩のなかに出てきます。
蜘蛛のえじきとなる虫たちを憐れんで
むしろ情けに富むものは
一ぴきごとに伝記を書くといふかもしれん
などとつぶやきながら森を歩く賢治さんの姿を連想してみるだけでも、
わたしは満足してしまいます。
賢治さんは「雨ニモマケズ」だけではありません。
敬遠せずに『春と修羅』も読んでほしいものです!