螢石には、産地によってさまざまな表情がある。
この標本はモロッコ産。
透かしみる世界は迷宮のように、目を楽しませてくれる。
錯綜と、不規則と、複雑さと。
そうして迷宮の奥には、お約束の鏡も、みつかる。
おなじ標本だが、角度によって反射がことなり、色合いもちがってくる。
迷宮(Labyrinthos)は、自分の心のなかのことであると、神話はわれわれに教訓をたれるけれども、
妄想のあげくに、石のなかに見いだすのも、こころの一部であるかもしれない。
これもおなじ標本を、うらがえしにしたもの。
母岩のなごりが、付着していて麗しいとは云いがたいが、
左下のすみっこを、よくごらんいただきたく。
小さな虹のかけらがあらわれている。
光が侵入する角度によって、虹だの、漣(さざなみ)だの、鏡だの、
いろいろなものがみつかるのが、螢石の醍醐味。
それは、標本によっても、のぞきこむ人の個性によっても、ことなってくる。
オーガンジーのような、光沢(こうたく)を持ったうすい布を、光りに透かしながら重ねあわせると、
波のようなもようが生き生きと姿を変えながらうつろってゆく。
螢石のなかでも、
角度によってそんな緑や青の布があらわれ、縞(しま)もようや、波紋を描く。
夏の午后に、昼寝をしながら妄想にふけってみれば、、
少しは暑さしのぎになるかも。