これもまた、古色がかった丸箱が魅力の標本。
自然アンチモニー(Native Antimony)
丸箱の直径はおよそ8㎝だが、標本そのものは1.5㎝の小さなアンチモニー。
アニチモニーの元素記号はSb(Stibium ラテン名)
主に輝安鉱(きあんこう)として産出する。
輝安鉱は巨大な結晶になることで知られ、かつては日本を代表する鉱物だった。
(愛媛県市ノ川鉱山のものが有名。現在は閉山)
理系でない者にとっての、高校の化学の授業は苦痛だった。元素記号もいやいやながらおぼえる。
Ca(カルシウム)やNa(ナトリウム)やNi(ニッケル)は、そのままなので負担はない。ところが、ラテン名などというものは知らないから、Sbとアンチモンが結びつかない。
だから語呂合わせをする。
たぶん、わたしと同世代の理系でない人は、あの当時おなじ呪文をとなえていたと思う。
Sbアンチモンカレーと。
(ただし教師はお見通しなので、生徒たちの悪あがきにニヤリとしつつ、試験には出さない)
標本に迫ってみる。
よくできた、小さな刃物のようだ。
現在の高校生は、レアメタル(希少金属)のひとつとして、アンチモニーを認識していることだろう。
アンチモニーをほかの金属に混ぜると加工しやすくなるため、かつては活字合金の必需品だった。 今では、高性能家電の難燃性を高める物質として、合成樹脂の生産には欠かせない。
「義兄と私」シリーズの主人公の勤務先では、アンチモニーの確保に奔走(ほんそう)しているにちがいない(日本は世界最大のアンチモニーの輸入国)。
中国が世界生産の8割を占め、内需拡大にあわせ、きびしく輸出制限しているそうだ。
でもまあ、そんなことはぬきにして、
古風な丸箱を愛でるというのが、(耳猫風信社の風土においては)
ただしい鑑賞のしかたである。