曹灰硼石(Ulexite)
テレビ石の正式名は、どうも堅苦しい。
鉱石図鑑の解説も、
「放射状または不規則な繊維状の結晶をなす。周縁では葡萄状の皮殻(ひかく)を形成」
と、いった具合に、ごつごつしている。
その葡萄状の表面を確認できる標本である。
ずっしりとした手ごたえの、
かたまりとしての存在感は格別だ。
うす青い、氷河を削りとったような色。
繊維状結晶の表面には、反射によって雲が走る。
その微妙なさまを画像でとらえるのはむつかしい。
賢治のことばを借りれば、こんな具合。
北はぼんやり蛋白彩のまた寒天の雲
これは「詩ノート」に記された〔ちゞれてすがすがしい雲の朝〕のなかのイメージだ。
水墨画に描かれた氷の滝の景色のようでもある。
走る雲は、目に見えていてもレンズには映らない。
人間の目の不思議さよ。
ふたたび賢治のわざに頼ろう。
ちゞれてすがすがしい雲の朝
烏二羽
谷によどむ氷河の風の空にとぶ
いま
スノードンの峯のいたゞきが
その二きれの巨きな雲の間からあらはれる