斜方十二面体の木製標本と柘榴石(ざくろいし)
昔は、ときおり鉱物屋さんで見かけた木製標本も、ちかごろ博物館でしかお目にかかれなくなった。今回は、日本製の古い木製標本が手に入ったので、ご紹介する。
十二面体の代表的な鉱物といえば柘榴石だ。
そのうちの、アルミニウムが多くふくまれる鉄礬(てつばん)柘榴石とカルシウムが多くふくまれる灰礬(かいばん)柘榴石をセットで。
木製標本をつくる木工職人のわざにほれぼれしつつ、
柘榴石独特のフォルムを楽しんでほしい。
(今は亡きこの職人を直接知っていた人によれば、
ふだんはただの酔っ払いだが、ひとたび模型をつくりだすや、
図面をひかずに多面体をあざやかに削りだす神業の持ち主であったと)
9月は柘榴の果実の季節でもある。夏のころ、ごつごつとした青い果がついているのを見かけ、これが色づくころには、すこしは涼しくなるのだろうか、などと思いながら歩いたものだが。
柘榴と書いて、昔はジャクロと読んだ。だから年配の人のなかには、ザクロと云わずにジャクロと云う人がいる。『箪笥のなか』でも書いたとおり、ジャクロには蛇黒の字をあててみたくもなる。
江戸時代の銭湯は温気が逃げないように、浴槽への出入り口を小さくつくってあった。そこを柘榴口と呼ぶのだと、解説や注釈に書いてある。
さらに、
どうして「柘榴口」と呼ばれるのかといえば、せまくつくられたところを、身をかがめて通りぬけるからだ、と書いてある。「屈み」と「鏡」をかけている、と説明はつづく。
学生のころは、柘榴と鏡が結びつかなかった。
柘榴からつくった酢は、鏡を磨(みが)くのにつかわれた。そのため、
屈み→鏡→柘榴、と連想がつながるのだ。
食べのこした種子を植木鉢にまいておくと、簡単に発芽するそうだ。
ほんとうだろうか?