くるみの化石(Junglans cinerea)
鮮新世の地層より採取したもの。
オランダ産。
宮澤賢治がイギリス海岸と命名し、「銀河鐵道の夜」において、プリオシン海岸と呼んだその場所で、カムパネルラやジョバンニがひろった、くるみの実。
それは、百二十万年ほど前の地層から掘りだされた、くるみの化石だった。
彼らは、白い岩(鮮新世の凝灰岩層の露出したところ)のそばにあつまって、たくさんのくるみの実を掘りだしている人たちの姿を見つける。
子どものころ、ここを読んだときには、からす貝のような、漆の黒さを連想していたが、実際はもっと燥いた手ざわりのものだった。
なにも知らなければ、地中から運よく掘りだしたとしても、化石とは気づかず、ただの炭化した木屑(きくず)と思ってしまいそうだ。
くるみの舟のなかで、「小さな人」が眠っている。
精霊のゆりかごか、それとも……
舟には、水に浮かべて大切なものを運ぶというほかに、うつわの意味もある。
旅のみやげを、昔の人は、「つと」と云った。
だいじに包んでおくもの。つつむ、と同じ語源だ。
いにしえの人々にとって、
衣のなかに、果物(くだもの)を包むことには呪術的な意図があった(魂ふり)。
舟は、「はこ」でもある。
はこのうち、円いものに筥の字を、方形に筺の字をあてる。
運ぶこと、包むことに、もっと神聖な意味と慎み(これも同源)があった時代のなごりである。
(9月の鉱石のご紹介はこれでおしまいです。カートオープンは22日を予定しています)