冬の日暮れは、太陽があっても景色はさびしい。
ひくい角度でさしこむ日ざしが、
道路や川の面(おもて)を、
銀箔のように、きらびやかに、それでいて薄く照らしだす。
乱暴にあつかえば、すぐに破れてしまいそうな、かがやきをおびている。
そんな冬の日暮れどきの光を思わせる、リチア雲母の標本をご案内する。
雲母の柱があつまっている。
断面は、わたしたちがふうつうに雲母と認識する、かがやきをおびている。
ところが、光をあてると、
銀箔の面が柱をなしていると思える標本が
ごらんのとおり、透けて見えるのだ。
難読の姓ばかりあつめた辞典を持っているのだが、
そのなかに、日日日と書いて「たそがれ」と読ませる姓が載っている。
実際にその姓を持つ人を、個人的には知らないし、
メディアでも見かけたことはないけれど、
きっとどこかで、ごくふつうに暮らしていおいでなのだろう。
これもまた、たそがれの似合う標本。
めずらしい、オレンジ色のカヤナイト。
藍晶石(らんしょうせき)の名で知られ、
通常は、その字のごとく、藍色(あいいろ)の結晶なのだが、
鉄やマンガンの成分を多くふくむと、
こんなふうにオレンジ色に変貌する。
弗素燐灰石(ふっそりんかいせき)
母岩つきの、標本。
これもまた、たそがれの日ざしを思わせる。
飴色(あめいろ)とも蜜色(みついろ)ともつかない色が魅力だ。
レモンドロップがうずもれているようで、
思わず、掘りだしてみたくなる。