先週、耳猫風信社の3月の鉱石をアップしたさいは、
原稿も続行中で、あたまのなかが煮詰まっていたため、
すみれ物語に、くわえるべきエピソードが
まだあったはずなのに、すぐには思いだせず。
原稿の手がはなれて、
そうそう、むらさき鉛筆のことを書いておくんだった、と思いだした。
プルーストはマドレーヌばかりではなかった。
「スワン家のほうへ」のなかに、
むらさき鉛筆にまつわる、魅惑的な箇所があったのだ。
スワンの娘のジルベルトに「私」が速達をだし、ある本を依頼した。
それを持ってきてくれた彼女が、
あわせて「私」が送った速達をマフのなかから取りだした場面で。
井上究一郎氏の訳でこんなふうに語られる。
(『プルースト全集1 失われた時を求めて 第1篇 スワン家のほうへ』
筑摩書房刊より)
その速達郵便のあて名のなかには――私の筆跡の空しい孤独な文字のおもかげは、ほとんど認められず、その上には郵便局がおしたまるい消印があり、むらさき鉛筆で配達夫の一人が書きそえた記入があり、そうした消印や記入文字の跡、ほんとうに現実化されたというしるし、外界がおしたスタンプ、人生を象徴するむらさき色の文字帯は、はじめて私の夢にむすびつき、その夢を維持し、高め、たのしませにきたのであった。
むらさき鉛筆なるものの色が、
Mauveなのか、Violetなのか、Pourpreなのかによって
だいぶちがうけれども。
原文をたしかめていないので、わからないが、
(読者のかたで、仏文にあかるいかたは詳しいだろう)
郵便局員がつかいそうなのは、
また、ふつうに日本語で紫と訳されるのはPourpreだ。
ともあれ、ちょっと思いだしたので、
『失われた時を求めて』をひっぱりだしてきて、引用してみた。
文字帯というところには、ベルトとるびをふる。
画像の藍晶石は、むらさきというより
きっぱり青色帯だけれども。