原稿が終わって、ようやくひと息つける、と思ったらこの寒さ。
またしても、からだが凍えて頭がはたらかず。
次号の「文藝」夏号(4月上旬刊)に掲載する『野川』の話をすこし。
東京の武蔵野地区に住んでいる人には、
同じ固有名詞を持つ具体的な川がすぐに思い浮かぶだろうけれど、
それ以外の地域に住んでいる多くの人には、
川のイメージをつくるのがむづかしいかもしれない。
一般名刺の野川は、まさに野をながれる川をさすのだろう。
東京の「野川」は、一級河川だ。
といっても、川幅や流域面積が大きいというわけではない。
水源地は、山間部ではなく、JRの駅から数分の住宅地のなかにある。
ただし、とある大企業の研究所の敷地内にあるため、ふだんは立ち入りができない。
「文藝」で、わたしの特集号を組んだときに読んでくれた人は、
その研究所内の水源付近を取材した記事におぼえがあると思う。
桜の季節には年に一度の一般公開があるので、
近くの人は、おでかけになってみては。
「野川」は、下流で「多摩川」と合流して東京湾にいたる。
住宅地のなかをながれる小さな川で、その姿は家並みにかくれてしまうほどだ。
東西にながい東京都の、ほぼ真ん中に水源地がある。
どうしてそんなところから川が生まれ、
小川ほど小さいくせに一級河川なのか、を知るカギは地形にある。
この「野川」流域は、先土器時代の銀座と呼ばれている。
遺跡によって、そのことが知られる。
氷河期の終わり(1万年ほどまえ)から、縄文人があらわれるまでのあいだで、
列島にナウマン象がいたころの話だ。
そういう地形にあらわれた古代を、
川とともに意識できるよう、導いてくれる教師がいたらいいのにね、と
思いつつ書いたのが、
『野川』という小説だ。
その小説のなかの季節は夏の終わりなんだけれども、
この寒さでは、気分がでない(笑)