菱面の結晶のかたちがよくわかる標本です。
母岩つきなので、
このままプリズムにするには
いささか無理がありますけれど、
うまく光を透過させますと、うっすらと虹があらわれます。
「群像」の12月号に
「ぼくの大伯母さん」という短篇を書きました。
〈名探偵登場〉という特集に応じた原稿ですので、
とある名探偵の名前がちらちらと出てきますが、
ミステリーとして書いたものであはありません。
ミステリアスな話、というていどです。
そのなかのエピソードとして、
月光をアイスランドスパーに透過して
虹を出現させる場面があります。
月虹を人工的につくってしまえ、というわけです。
わたしは彩雲(エメラルドグリーンでした)を見たことはありますが、
月虹はありません。
ホンモノのアイスランドスパー(氷州石)は
たいへん高価なので、このたびは母岩つきの
菱面結晶の標本をご用意したしだいです。
とはいえ、これもなかなか手に入りにくい標本ですから、
ちょっと高級です。
砂糖菓子やナタデココをまぜこんだ、
食感を楽しむタイプの
アイスクリームといった感じでしょうか。
いま、『アノスミア』(嗅覚を失った人の物語)を
読みはじめたところなのです。
そのなかに、
アイスクリームメーカーの経営者の話があります。
この人には「嗅覚がないらしい」というウワサ(伝説)があり、
主人公はそれを確認するために電話をかけ、
本人と話します。
(企業の経営者に電話がつながるとは驚きですね)
ウワサは本当で、
アノスミアゆえに
フレーバーのみならず、
食感を楽しむアイスクリームを考案したところ、
それが、嗅覚に異常のない人々にも大ウケしたというわけなのでした。
そんなわけでで、この標本をながめながら、
ゼラチン質のお菓子やマシュマロがかくれている
アイスクリームを連想したのでした。