満月を愛でつつ、
炒り番茶と羊羹で過ごす秋の夜長
そんな贅沢を連想してみたくなる月夜でした。
東窓のわたしの部屋からは
まだひくい位置にある月がよく見えます。
昨夜のスーパームーンは
地域のランドマークとなっている樹木の真後ろからのぼり、
なんだか樹のなかに提灯を吊るしているようでした。
今月の標本は
久々に登場の雷卵石です。横顔はこちらです。
卵というよりは、クルミのような丸みです。
瑪瑙の織りなす色合いが秋の夕暮れといった風情でしたので
虎屋の羊羹を思いだしたのでした。
もうずいぶんまえになりますが、
たしか東京ミッドタウン限定で
一棹のなかに、
新月から満月へと
月の姿を表現した羊羹がありました。
切りわける位置によって、月齢が変わるのです。
暁の天に浮かぶ山吹の月でした。
もちろん、画像でしか知りません。
なにしろこの限定羊羹は
一棹で一万円以上もする贅沢品でした。
その後も虎屋の季節の羊羹や限定品は
ますます意匠を凝らしたものとなっています。
昨年あたりから登場した〈雲の峰〉は
まさに夏の入道雲。
透明羊羹に表現された真っ白な雲には目を奪われました。
これも、購入していません。眺めるだけ。
羊羹はたとえ1センチの幅でも
巨大なカロリーになるため、
わたしのような年齢の者には危険すぎるのです。
四季の富士シリーズなど、
画像で愉しむ日々です。
こちらの標本は紅が魅力の辰砂です。
銀露と紅い実に想を得た匠の手による和菓子のような。
しかし、ご存知のとおり
辰砂とは水銀の原料でありますから、口にはできません。
さらにそこから丹朱、銀朱、潤朱などの
顔料を得るのです。
中国古代の殷のころから、
朱砂を蒸留して水銀を得る精錬技術はあったそうです。
中国古代の墓から見つかる花土は
葬器の刻字に填めた丹朱が
その器(木製)が朽ちたのちも
鉱物であるがゆえに土のなかに残ったものです。
こちらは翠銅鉱です。
しばしば、
エメラルドよりも魅惑的なエメラルド色をおびる
鉱物ですが、
実は硬度はひくく、宝飾品には向きません。
ひたすら、エメラルドグリーンを愛でる標本です。
「みどり」とは、古代には〈あたらしきもの〉を指すことばでした。
あたら・しとは、すばらしいの意味でもありました。
さて、書いているあいだに時が過ぎ
中空にのぼった月は
提灯の色から水銀のようなかがやきとなりました。
「月は水銀」といえば賢治ですね。