ヌスビトハギの実
夏期講習の
教材の紙の匂いを記憶したのとおなじ秋、
受験するつもりの学校の説明会に出かけました。
当時は、夏のオープンスクールのようなものはなく、
秋の学校説明会が、学校を訪れる最初の機会でした。
美術系の学校だったので
受験科目にも実技があり、
説明会も作品を持って出かけました。
美術担当の教員が
「見てくれる」のですが、
批評会というほどのものではなく、
「よく描けているわね」ぐらいのことばを
かけてもらう程度のことでした。
この説明会を主催する学校側のほんとうの目的は、
順番を待つあいだの廊下にずらりとならべられた
在校生の生徒作品と過去の受験生の優秀作を
受験生たちに「見せる」ことでした。
そのうえで、
「受験するかどうかを判断してね」というのが本音だったと
思います。
高校一年生の作品を中心とした展示でした。
中学三年生としてそれを目にしたわたしの感想は
「うわっ、全然レベルがちがう」というものでした。
そこにならんでいたのは、技術的に上手いだけでなく
色彩や線において個を表現した立派な作品であって、
デッサンを整え、彩色するだけがやっとの自分の絵との
差は歴然としていました。
なんとしても、
「このひとたちと一緒に描かなければ」と強く思いました。
入学したのちに、同級生たちと話をしたところ
みんなも、おなじように
「こんなに上手いひとがいるんだ」と驚愕し
(とくに過去の優秀作品)
一瞬ひるんだよ、と云っていました。
わたしより四年おくれて、
この説明会に参加した妹によれば
彼女のときも、
おなじ「優秀作品」が展示されていた、とのことで、
あれって、ほんとうに過去最高作品だったのかもね、と
云いあったものでしたが、
もしかしたら、いまもあの作品は
学校案内のパンフレットに掲載されているかもしれません。
モチーフは透明ガラスの花瓶に挿けた花で
縦じまのクロスをかけたテーブルに置かれているのでしたが、
茎や葉、縞もようの色彩が
ガラスに透けるようす、
さらに水のなかで屈折しているようす、
その色彩の描きわけが素晴らしかったのです。
あの地点から、ずいぶん遠くへ来てしまったものだ、と
思うばかりです。