府中市美術館「橋口五葉のデザイン世界」展を開催中
2025.5.25~7.13
漱石の『吾輩ハ猫デアル』の装幀を担当した橋口五葉は
その下巻の本文の表紙に
当時としてはモダンな猫の絵をあしらいました。
漱石がタイトルにカタカナをつかったのは、
洋書の雰囲気を装いたいからでした。
下巻は1907(明治40)年の刊行ですから、
おおよそ120年前になります。
上巻、中巻では、アールヌーボー調の猫が描かれています。
紋様と化している猫でした。
挿し絵を担当したのは中村不折と浅井忠で、
漱石の趣味にかなった「滑稽」な場面を描いています。
下巻の表紙も、上巻、下巻とならべたときに
おなじシリーズであることがわかる装幀になっています。
ですが、本をひらいたところで、
ちょっとようすのちがう黒猫くんがあらわれます。
それは、本文扉の右頁に描かれています。
ガラスコップの水を飲もうとしている場面で
首にリボンを結んでいます。
現代人が「かわいい」と思う猫です。
なぜ、
突然リボンを結んだ猫のイラストになったのでしょう?
リボンの発想はどこから?
ウォールター・クレインが
『長靴をはいた猫』の絵本を出版したのは1874年でした。
現代人が思っている形式で
最初に絵本をつくったひとです。
ゆえに「絵本の父」と呼ばれます。
ケイト・グリーナウェイと同時代のひとです。
ウイリアム・モリスとも仕事をしています。
橋口五葉さんは、おそらくどこかで
ウォルター・クレインの猫を目にしたのでしょう。
視覚を意識した仕事ぶりから推測すれば、
著者の漱石や、鏡花よりもさらに
読者としての女のひとたちを意識していたのではないかと
思うのです。
「かわいい」の感性は、
竹久夢二によってよりはっきりとあらわれてくるのですが、
『吾輩ハ猫デアル』のリボンを結んだ猫も
「かわいい」の時代のひとつのはじまりだったと
思われます。
「月の船で行く」1991収録のアンソロジー本が刊行されました。
12か月の本シリーズ『7月の本』西崎憲編 国書刊行会
(詳細は耳猫風信社HPをご覧ください)