
望月通陽さんの、このカバーイラストの原画は染色なのです。染めものの味わいが、印刷ですとなかなか再現できないのは、惜しいことです。
わたしは原画を拝見しているだけに、なおさら。
江戸時代には、糸を染めて布を織ることは日常的におこなわれていました。当時の人々に好まれたのは、茶やねずみ色のバリエーションで、「四十八茶百鼠」(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)ということばもあったほど。
たしかに日本の伝統色の見本帖を繰りますと、茶と鼠はそれはそれはたくさんあります。うぐいす色のような緑系の色も、柳茶(やなぎちゃ)、抹茶(まっちゃ)などと茶の部類。
また青ぐろい色味である青丹(あおに)、藍で浅く下染めしてから茶に染めた千歳茶(せんざいちゃ)など青系の色味も、茶と呼ぶほどの執心ぶりだったわけです。
その後、茶やねずみ色(グレー)は、細々とブームがあるものの江戸時代ほどの隆盛を見ずに、今にいたっています。
いっぽう現代になって人気のたかまった白系の色の名前は、あまり豊富ではありません。『カルトローレ』を書いているときに、糸や沙や植物の白さをあらわす語が、どうしても重複してしまうことに、悩まされました。外来語における白をあらわすことばは、和語にくらべればまだ豊富です。
レース製品に代表されるように、ヨーロッパでは伝統的に白が好まれてきたからでしょう。